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アンカーズアイ~“保育ママ事業”の現実~(関西テレビ ニュースアンカー)
(2013年2月5日放送の17時台の特集)
二児の父、和泉誠さん、37歳。
大阪市の保育ママ制度に名乗りを上げた一人だ。
2歳以上の子ども向けに美術教室を開いているが、教室に集まる子どもたちの親から、
小さな子どもを預ける場所がないと聞いたことが応募するきっかけになった。
「子どもの発想やアイデアをできるだけ引き延ばしてあげられるような形で保育をしたいなと思って」(和泉さん)
保育ママになるには、大阪市が行う研修や試験を受け、保育施設で実習に参加する必要がある。
和泉さんは、仕事を調整しながら、およそ40日間の日程をこなしている。
「まず、一にも二にも安全性です。今日の小児保健の勉強はこの安全です。」(研修の講師)
保育ママとは3歳までの子どもを小規模の施設で預かる制度で、都市部を中心に全国の自治体で導入されている。
しかし、神奈川県では保育ママの不注意によるとみられる死亡例もあり、保育士の資格がなくても預かれる仕組みに、
保護者の評価もまちまちだ。
「安全かどうか分からないので、どうかなとは…」
「許可(保育士資格)があるから安心というのも正直ありますし、そのへんでは、ちょっと微妙かもしれない」(街の声)
国のガイドラインでは、一人の保育ママが3人の子どもを預かることができるが、
大阪市は安全性を考慮し、最低でも2人の保育ママで預かることを義務づけている。
その一方、制度が複雑で様々な制約があるため保育ママを目指す人の負担は大きい。
「こんにちは~お願いします」この日、リフォーム業者が美術教室を訪ねてきた。
和泉さんは現在開いている教室を2階に移し、1階を保育ママ施設に改装しようと考えている。
「床を上げるというのと、仕上げ材を向こうまでやってしまうのに全部で45万円」
「検討します」
子ども5人を預かるには16.5平方メートル以上の専用の保育室と調理設備、トイレなどが必要で、
この教室では間仕切りを外し、床の高さを上げるなど大掛かりな工事の必要性も出てきた。
「必要最低限の部分だけ改装すればいけるかなと思っていましたね、思ったよりも基準が厳しいですね」(和泉さん)
現状では、自宅の部屋をそのまま使って開設できた人はおらず、リフォームにかかる費用に対して、大阪市からの補助はない。
さらに、万が一に備えた出費もある。
「年間でこれだけするんですね」(和泉さん)
「そうですね」(保険屋)
「まあまあ結構の額ですね」(和泉さん)
子どもの死亡やケガを補償するための保険に加入する必要もある。
不安を抱えているのは和泉さんだけではない。
研修の参加者からは大阪市への質問が噴出している。
「三ヵ月くらい運営できるお金をおいとくというのがあるじゃないですか…」(参加者)
「支払がどうしても二ヵ月後になるので、その間の保育スタッフにきちっとお給料を払えるだけのお金があって…」(大阪市)
「(社会)保険は?」(参加者)
「詳しくは社会保険事務所に、こういう事業始めますと・・・」(大阪市)
保育ママが得る収入はこども一人あたり約10万円。
和泉さんの場合は定員の5人が集まれば、50万円以上の収入となるが、
そこからスタッフの人件費や設備の維持費、保険料なども支払わなければならない。
「定員いっぱいになってなんとか運営ができるくらいの金額の設定になっているので、
一人欠けて二人欠けてとなると採算がとれるのかなというのが正直な思いとしてありますね」(和泉さん)
すでに市内には10カ所の保育ママ施設(個人型)がある。
これまで待機児童の受け皿となってきた。
大阪市北区の保育園メリーランドさん
認可外保育所が保育ママ事業に参入するケースも多く、
こちらでは、ここでは廊下を挟んでそれぞれの保育室が向かいあっている。
認可外保育所からスライドする形で保育ママに子どもを預けることになった親は・・・
「スゴく助かっています保育園自体が受け入れ人数が少ないし、やっぱり経済的に楽になります」
「(負担が)1/4くらいにはなってますかね」
大阪市から補助が出る分だけ、預ける親には保育料が減るというメリットがある。
一方、経営者は・・・
「かつかつですね。やはり2つのテナントを借りているというのもあるし、皆さんが言っている家庭でやっているというニュアンスとは全然違うので、それなりの設備もちゃんとやっているつもりなので・・・」(代表畑中有美さん)
保育ママでは、夕方までしか子どもを預かれないため、夜に預ける親のために、認可外保育所も続けていくという。
4月から保育ママを始めたいと考えている和泉さん。お手本となる施設があると聞き、見学へ向かった。
「こんにちは、よろしくお願いします」
保育士資格を持つ表原さんは家族が所有するオフィスを借りて全面的に改装し、去年11月の開設にこぎつけた。
認可保育所に負けない保育を、という思いから、幼児専用の洗面台やトイレを設置し、給食も施設内で調理している。
「設備的にすごくしっかりしている。これを作ろうと思うとちょっと大変」(和泉さん)
充実した環境に驚く和泉さんは一番気になる点を聞いてみた。
「やりくりは今のところ可能なんですか?」(和泉さん)
「正直見て頂いたら分かるように丸丸赤字・・・」
私たちが理想の保育を日々続けていく、3年4年5年立つ中で少しずつ埋めていければ」(代表 表原 香奈子さん)
「先生のこういう保育がやりたいという思いが伝わってきますよね」(和泉さん)
和泉さんには、イタリアから世界に広まった“子どもの創造性を高める保育”を取り入れたいという理想がある。
しかし、現実問題に悩まされる日々が続く・・・。
「開設準備金というのがあるという話だったんですが、今更なんですけど、書類上の問題で4月に間に合わないかもしれない」
4月の開設へ向けて、市の指導のもと半年近く準備をしてきたが、ベビーベッドや遊具などを買う費用として受け取るはずだった
補助金の申請が間に合わないことが分かった。
行政の中で連携がとれていない、いわゆるお役所的な対応が招いた結果で、保育ママの多くがこの点で苦労を強いられている。
「平成24年度から個人型(保育ママ)を始めたところでありますので、少し複雑な制度の部分を十分説明できないということも
あり得るとはおもいますけども・・・」(大阪市の担当者)
和泉さんはやむなく、最大20万円の補助をあきらめ、必要なものは自費で購入することに決めた。
美術教室に子どもを預けている親たちからの後押しも、励みになっているからだ。
「美術教室がどういうふうに変わっていくか楽しみにしています。
はじめてのことをやるのは大変だと思いますが私たちも応援しているので」
「4月にうまく開設できて子どもも集まってくれたらいいですけどね」(和泉さん)
子どもを安全に預かりながら、難しい経営も強いられる保育ママ。
待機児童を解消する手段になるか否かは彼ら一人一人に託されている。
2013年2月5日放送
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